はじめてのオーダースーツ

銀座の社長 × ペコラ銀座

日本でも有数のテーラーとして知られている
「ペコラ銀座」さん。
縁あって、銀座の社長(高橋一)が
初めてオーダースーツを注文することに。
生地を選ぶところから、出来上がりまで
全13回にわたって掲載いたします。

ペコラ銀座について

目次

第2回
採寸は、できるだけ速く。

佐藤:
服地はブランドが
大事な部分でもあるんです。
伝統的に残っているメーカーは
やっぱりそれなりにいい生地が多い。
プロも名前を知らないような
メーカーで、
いい生地はほぼありません。
名前が残っているメーカーは、
信用もあるし、仕上がりも違います。
結局、織れるいいメーカーは、
今の時代、限られています。
そういう時代で
「知る人ぞ知るメーカー」
というところはほぼありません。
高橋:
ちょっと前の生地に関していうと、
機械は同じなんですか?
佐藤:
わからないです。
生地屋さんはあまり
同じだと言いたくないのが
本音だと思うんですけどね。
高橋:
それでも、
佐藤さんから見れば生地が違うなと。
佐藤:
違うと思います。
高橋:
きっと、いろんなことが
影響してるんでしょうね。
一概に何がとは言えないでしょうが。
採寸は、できるだけ速く。
佐藤:
糸屋さんも変わりました。
糸の原料の作り方も、
効率を求めた作業に
変わってきています。
それで効率を求めたときが
いちばん危ない。
要するに、
大量生産向けになればなるほど、
いい部分もありますが、
失われる部分も必ずある。
高橋:
なるほど。
色も微妙に違いますね。
佐藤:
はい、そうなんです。
紺がいちばん違いますね。
高橋:
この光沢も違う。
佐藤:
綺麗に光沢を出すことが、
新しい生地の流行みたいなんですよね。
高橋:
生地にも流行があるんですね。
佐藤:
はい。
安っぽく見えると思うのですが。
ただ、流行っているということは、
一般的には光沢があるものを
大多数の人が求めている。
ですから、
うちもそういう生地を揃えています。
採寸は、できるだけ速く。
高橋:
いい生地が見つかると
嬉しいものですね。
佐藤:
スーツ生地の中では、個人的には
これ以上のものはないと思っています。
値段が単純に高いものとか、
細番手の高級なものとか、
そういう生地は、もちろんいくつも
ありますけども、
それらを除くと
これはいちばんだと思います。
では採寸の方を。
高橋:
ジャケットは
脱いだ方がよろしいですか?
佐藤:
そうですね。
脱いでもらっていいですか。
採寸は、できるだけ速く。

(華麗に黙々と採寸を行う佐藤さん。
ものの数分で終了)

佐藤:
はい、ありがとうございます。
高橋:
おー、以上ですか。
緊張した。速いですね。
感覚的には、
もっとゆっくり測ると思っていたのが、
なんていうんだろう、
システマチックにピッピッピと。
自分のリズムもあるんでしょうね、
きっと。
佐藤:
たいていのお客さまは、測られることが
あまり好きではないと思うので。
だから、できるだけ速くしようと
とくに若いときは気をつけていました。
今は、急ごう、という意識は
ないんですけどね。
最初のときは、もちろん正確さは
いちばん大事なんですが、
なんていうのかな、
経験なんでしょうね。
結局、迷ったり、
悩んだりすると時間がかかります。
ただ、採寸は、
ある意味いちばん大事です。
洋服がちゃんと
イメージ通りにできるかどうかの、
最初のいちばん大事なところなので。
だから、速ければいいわけでも
ないんです。
でも、お客さまが嫌なことは
速めの方がいいかなとは思っています。
採寸は、できるだけ速く。
高橋:
すっごい意外でした。
イメージ的にはゆっくり測ると
思っていました。
それが、すごいリズミカルに、
パシッパシッパシッと
測っていましたね。
佐藤:
仮縫いも速い方です。
最初は時間かかりましたが、
だんだんと速くなりました。
最近のお客さまは仮縫いを
嫌がらない方が増えたんですけど、
昔は多かったんですよ。
高橋:
嫌がる?
佐藤:
ええ、仮縫いが好きじゃない。
高橋:
オーダースーツに慣れてる方は、
そうだったんですかね。
僕なんかは、仮縫いしてくれると聞くと
ワクワクしちゃいますけど(笑)
佐藤:
そういう人も中にはいます。
最近は、
ちゃんとできる方がいいからといって
必ずやる人が多くなりましたね。
まあ、その方が僕らも安心して
進められるのでいいんですけど。
ただ、時間的には少し速めに
採寸することを気をつけています。
仮縫いのときに
おかしなところがあったら、
どう補正しなくちゃいけないとか、
どこがいけないかとか、
チェックしていかないといけないので。
そのときにやっぱり、
「どうやって直そうかなあ」
と考えてると
どんどん時間がなくなります。
高橋:
なるほどね。
まあそれは経験値なんでしょうけど。
佐藤:
駆け出しの頃は
「はあ、どうしよう」って(笑)
採寸は、できるだけ速く。
高橋:
絶対そんなの顔には出さないでしょう。
頭の中では、
そうなってるかもしれないけど(笑)
でも、意外でした。
佐藤:
先ほど、たすき掛けで測りましたけど
あれは、昔からある測り方なんです。
「ショートメジャー方式」といって、
日本では「短寸式」と呼ぶのかな。
元々はイギリスやアメリカで
流行ったやり方です。
戦後、少し流行って、
だんだんそれが廃れて
バストを中心とした「胸寸式」という
採寸方法が一般的になりました。
その「ショートメジャー方式」
というのは、
仮縫いをするときに、
お客さまの体形補正に合わせやすい
測り方なんですよ。
ただ、採寸が難しくて
きちっと測らないと
ものすごく変な服に出来上がる。
そのリスクが大きくて、廃れたんです。
大正時代からある採寸方法で、
昔はこれが当たり前でした。
高橋:
当たり前だったんでしょうけど、
効率とかを考えると、廃れていった。
佐藤:
そうですね。
より、安定的に、
失敗しない採寸が選ばれていきます。
でも、難しい測り方の方が、
より確実に
フィットするものを作りやすい。
高橋:
この測り方を今でも取り入れている人は、
佐藤さんぐらいですか?
佐藤:
そんなことはないです。
僕が知ってる人だと
もっと細かくやってる人に、
服部先生という方がいます。
「金 洋服店」というお店で
お父さんの代から、
昭和天皇の服を作っている方です。
高橋:
でも、その方くらいしかいない。
佐藤:
確かにあまり聞かなくなっていますね。
うちの父親が、偶然そのやり方を
取り入れていたんですよ。

目次